①で、日本の主要な基盤はチェーンをまたぐ部分の答えの候補をすでに持っていて、それは銀行系の基盤の外にはまだない、と書いた。この記事では、誰がその仕組みを、誰のために持っているのかを地図にして、LayerZeroの入り口を探す。
銀行系の基盤は、自前のクロスチェーンを持っている
チェーンをまたぐ取り組みは、日本でもいくつも動いている。ただしその多くは銀行系の基盤の内側にあり、それぞれ自前の用途に向けて作られている。
Progmatは、三菱UFJ信託銀行が筆頭株主の合弁会社で、証券やステーブルコインの発行・管理基盤を手がける。Datachainと2023年3月から技術提携し1、2026年2月にはAvalancheとの協業で、証券とステーブルコインを同時に受け渡すクロスチェーンのDvP証券と代金を同時に受け渡す決済方式・PvP異なる通貨・資産を同時に交換する決済方式を打ち出した2。7月には、この仕組みを使った不動産STの実証が動いている3。チェーン間の移転そのものも、2024年5月にEthereum・BNB Chainのテストネットで、一方のチェーンで焼却し他方で同量を発行するBurn-Mint方式を実証している4。ただしこれはテストネットでの検証で、Progmat Coin自体の本番発行実績は確認できていない5。
SBIグループは2025年8月、Chainlinkと戦略提携を結んだ。トークン化した不動産や債券をチェーンをまたいで扱い、為替や国境を越える取引のPvP異なる通貨・資産を同時に交換する決済方式決済に、CCIPChainlinkのクロスチェーン相互運用プロトコルを使う6。
送金の領域も、担い手が並んでいる。ProgmatとDatachainは2024年9月、Swiftと連携するステーブルコイン送金基盤Project Paxを始め7、2025年9月に韓国の金融機関とのフェーズ2へ進んだ8。国際決済銀行(BIS)は2024年4月、日本銀行を含む7中央銀行とProject Agoráを立ち上げ、2026年7月に3メガバンクも加えて、日本円を含む6通貨・28機関で実際の資金による検証を行った9,10。2025年11月には、3メガバンクと三菱UFJ信託銀行が共同でステーブルコインを発行し、三菱商事のクロスボーダー決済に使う実証が、Progmatの支援のもと、金融庁の支援案件に採択された11。日本ブロックチェーン基盤も2026年5月、Japan Open Chainを中核とする信託型ステーブルコインEJPYの発行方針を示した12。
技術も一つではない。ProgmatとDatachainはLCPDatachain開発。ブロックチェーン間の情報が本物か検証する仕組み・IBC異なるブロックチェーン間でデータをやり取りする通信規格、SBIグループはCCIPChainlinkのクロスチェーン相互運用プロトコルを使う。だが共通するのは、どれも銀行系・機関投資家向けの枠組みの内側にあり、証券決済・国際送金・自社ステーブルコインという自前の用途に閉じていることだ。
その外の発行体には、流通の手段がない
一方で、これらが扱っていない領域がある。一つの発行体が出した一つのトークンを、需要が現れたチェーンへ行き渡らせること。これを流通と呼ぶ。海外の取引所やDEXで取引されるときに問題になる。だが、この流通を担うレールは、銀行系の基盤の外ではまだ使われていない。
JPYCがその実例だ。金融庁に登録された資金移動業者JPYC社が発行する、日本円と1:1のステーブルコインで、Ethereum、Polygon、Avalanche、Kaiaの4チェーンに個別に発行されている。公式GitHubには発行・償還の記載はあるが、チェーン同士を直接つなぐブリッジは見当たらない13。
9月17日、韓国のUpbitに上場すると、JPYCの価格が一時、1円のペッグから3倍以上に乖離した。Upbitが対応したのはEthereumだけで、そこにあるJPYCは流通量の約7%にすぎなかった14,15。ブリッジがないため、Polygonなど他チェーンの供給をEthereumへ動かせず、品薄を埋めるにはJPYC社の発行窓口で新規に発行するしかない。窓口には本人確認と1回100万円の上限がある。折悪しく、この窓口も同日、ミンティングの不具合で一時停止した。結果、同じトークンが同じ日に、Ethereumで約3.14円、Polygonで約2.92円、Avalancheで約1.39円と、チェーンごとに違う値をつけた。1円近くに戻るまで、Ethereum・Polygonで約8時間、Avalancheで約2時間かかった16。
チェーン間で供給を直接動かせるレールがあれば、発行窓口を介さずに済み、本人確認も上限も当日の停止も関係なかった。価格差がどこまで縮んだかは分からないが、発行窓口だけが頼りという構図は変わっていた。
LayerZeroが入りうるのは、この流通
この流通こそ、LayerZeroの本業だ。OFTLayerZeroの、同じトークンを複数チェーンで扱う規格は、同じトークンを複数チェーンで一つの供給として扱い、保有者が自分でチェーン間を動かせる規格だ。特定の銀行系基盤に属さない、独立したレールになる。AnchorageがステーブルコインでLayerZeroを選んだのも、韓国のBDACSがウォン建てのKRW1で採用したのも17、この部分だ。
もっとも、あるチェーンにLayerZeroのエンドポイントがあっても、そのチェーンのトークンが自動で使えるわけではない。発行体がOFTLayerZeroの、同じトークンを複数チェーンで扱う規格として実装して初めて動く。JPYCが4チェーンに持つのは、これと繋がっていない普通のトークンのコントラクトだ。
入り方も、米国と日本で違う。Anchorageで得たのは、発行基盤ごと取り込むことで一社ずつ口説かずに広がる形だった。日本では、決済・送金の層を銀行系の基盤が自前で押さえているので、その形は取りにくい。残るのは、JPYCのような銀行系の外の発行体に、一社ずつ採用される形だ。BDACSがKRW1でLayerZeroを選んだのと同じ入り方になる。もっとも、JPYC社がその仕組みを設ける計画は、調べた範囲では公表されていない。